東京電車唱歌双六 

(明治39年11月、 画作 藤山種芳)本所区松坂町1丁目11番地




 ふりだし

 1・かすみひく みやこのそらのはるげしき
    ひらけし電車の便かりて 日比谷を跡に山の手へ
 2・きみがまします皇城は 凱旋道路の侭まり
    さくらだ門を右に見て ほりをうしろに三宅ざか
 3・赤さかすぎて東宮の 御所を拝して北町に
    電車は行てとどまれり 錬兵場はほどちかし
 4・元来(もとき)し道を半蔵の 門をうしろに麹町
    行手は四谷新宿ぞ
 5・またも日比谷を跡にして 山下いずれば尾はり町
    築地の線路、歌舞伎座の 前よりつきじ本願寺
 6・新富町より、さくらばし
 7・かやば丁薬師右にみて 折れてすすむは
    永代の橋をわたれば 深川のゑんまどうはしに行くものぞ
 8・八幡宮や不動尊 洲崎弁天遊郭
    まゐるも往(ゆ)くも とをからじ
 9・また、かやば町へと もどりきて右にわたれば鎧橋
    第一銀行かぶと町 株式仲買、店多し
10・わたるあなたに米市場 水天宮へ詣でつゝ
    人形町通りを浪花町 浜町明治座みぎに見て
11・進みて左手(めて)へ河岸を 伝ふて到る広小路
    両国ばしをひがしへとわたる本所回向院(えこういん)
12・櫓太鼓の音高く ひびく頭上の鉄道は
    総武をかよふ汽車なるぞ 石原あとに浅草へうまやばしを蔵前へ
13・七軒町や西町を 通れば上野の広小路
    のぼる湯島の切通し 本郷どをり神田へと
14・明神坂下りつゝ 昌平はし、より小川まち 直ぐなるみちは九段行き
15・左りへわたる神田橋 和田くら、馬場先わきにして
    すゝむは日比谷か、すきやばし 芝公園に四国町
16・くだるは田町札の辻 品川いでて泉岳寺 北へと行くにはのりかへて
17・はしるまもなく本芝や 金杉ばしも、はやこへて
    神明前や芝口の ステーションつきにけり
18・新ばし、わたれば をはり町
    銀座どをりや京橋を こへて中橋通り町
19・日本橋には魚市場 室まち、ゆけば三越の
    呉服は名高く知られたり
20・本町まがれば薬種店 のきをつらねし伝馬町
    昔しありにしなごりなる 大門通りよこにみて 横山町もはやすぎて
21・電車の往来もいと志げき 浅くさはしをかや町へ
    わたりてすゝむ御蔵前 八幡宮や駒形堂 隅田川にも船志げき
22・雷門は名のみにて 仲見世とをれば仁王門
23・浅草寺の観世音 参拝するもの絶間なく
    公園見せものにぎはしく 墨田の花見も川ひらく
24・浅草田まち本願寺 下谷いなりや幸徳寺
    日本鉄道ステーション 上野公園花の山
25・不忍池の月雪を そへて三はしや広小路
    御成街道名ごりとて かたみによびし五軒町 よろずよばしをわたりつゝ
26・此所(ここ)は神田須田町の とをりを行かば石町の 十軒店に雛の市
    金撞(かねつき)堂も辺なり 藍染川に架渡す 今川橋より曲線の
27・道を左右に迂回して 馬喰町よりや柳原 神田川辺を昌平の
28・橋を渡りて御茶ノ水 濠端線を志づ志づと
    のぼる彼岸(あなた)は、するが台 清き清水の小石川
29・砲兵工廠右にして 渡る江戸川涼舟 牛込市ヶ谷四谷線
30・赤坂御所を拝しつゝ 日枝神社を通過 溜池ほとりいそぎつゝ
31・虎の門にぞ着きにけり いそぐぞまたも進み行く 幸橋やすきやばし
32・鍛冶ばし、外に呉服橋 一石ばしを向うふへと
    越ゆる右手(ゆんで)に高々と ならびたちしは
33・正金か日本銀行通切れば 鎌倉河岸より錦町 神田区役所横にみて
34・神保町の交差線のりこへすゝむ新開の
35・本社の前に停れば
36・下りる諸人急ぎつゝ袖をわかちてかへり往く

あがり